大阪高等裁判所 昭和40年(う)2138号 判決
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〔判決理由〕よつて所論にかんがみ記録を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して案ずるに、原判示饗応並びに受饗応の各事実は原判示関係証拠(但し被告人らの検察官調書の任意性ないし信用性については後段で判断する)によつて肯認することができる。すなわち右関係証拠によれば、所論の原判示各饗応の行われた時期は、いずれも原判示選挙から約二ケ月半前或は一ケ月半前であるが、当時既に新聞やテレビの報道で、衆議院の年内解散の声が高く、年内か、遅くとも来春早々に総選挙の行われることが必至であるという情報が広く一般に流布されて選挙民の常識となつていたこと、そこで当時既に次期総選挙に立候補の決意をしていた右玉置一徳のため、古川方章及び竹村弥太郎らが中心となり、これに右玉置一徳の後援会の田辺町各地区の責任者である被告人竹村為雄、同田宮正夫、同森嘉一郎、同山崎安蔵らがそれぞれ協力し、右の総選挙に備えるため、原判示第一及び、同第二、第三、第七の(一)各の日時場所において、右玉置の国会報告会又は同人の後援会発起の名目で集会を開き、同地区の選挙人であり、かつ玉置の支持者の出席を求め、右玉置の国会報告等を聞くとともに、出席者に玉置の後援会員の募集に協力方を依頼し、その実質は、来るべき総選挙に際し玉置候補のため投票並びに投票取りまとめ等の選挙運動を依頼するに至つたこと、殊に原判示の昭和三八年一〇月六日田辺町公民館において開催された集会には、被告人田宮正夫ほか十数名の後援会の各地区の責任者が出席し、後援会の役員の選任や来るべき選挙対策を協議するとともに、右玉置一徳及び竹村弥太郎が出席者に対し選挙時期の接近につれ選挙運動について一層の努力を懇請したこと、及び右各会合の席上原判示の趣旨で原判示の如き各饗応がなされ出席者もその趣旨を知りながらその饗応を受けたものであることが認められる。そして、右各場合において提供された飲食物は、ビールと付き出し、又はすしとビール、又は箱弁当に茶碗酒等いずれも簡素なもので、その価額も原判示の如く一人当り一四〇円ないし三一〇円程度の低廉なものではあるが、かかる酒食の饗応が如何なる会合の場合にも常に社交的儀礼行為であるとして、その可罰性を欠くものと速断する訳にはいかない。要は、会合者相互の平素における交際関係の有無や、その深浅だけでは足らず、会合の目的、会合の時期等あらゆる場合を勘案して相対的に判断した上で決しなければならないものと解するを相当とする。ところで本件では、たとい、被告人等が所論の如き関係から平素じつこんの間柄であつたとしても、前段認定の如く本件饗応は近く総選挙が行われるであろうと予想せられる時期において、右選挙に際し玉置一徳を当選せしめようとする目的で会合を開いた際、その席上においてなされたものであるから、その饗応が右の選挙に無関係なものと言い切れるものではなく、かつ、その饗応の程度が普通一般に見られる社交的儀礼行為程度のものであると解し得ても、この程度の饗応が公職の選挙に関してなされたものである以上、社交的儀礼行為として可罰性がないものとする所論には到底賛成することはできない。なんとすれば、公職の選挙はあくまでも清く、かつ公正でなければならないのであつて、この公正は選挙運動に際し、実質上はもとより、形式上の行為においても公正を遵守することによつてはじめて確保できるものと解するところ、公職選挙法は、この公正を期するため各種の禁止規定を設けると共に金のかからない清らかな選挙を目的として選挙費用の総額を法定し、その使途等についても詳細な規定を置いているのであつて、右以外に会合に人を招集すれば酒食を饗応するという普通一般に見られる社交的慣習は、こと選挙に関する限り許されるものではない。このことは、公明選挙、金のかからない選挙が叫ばれて以来既に久しい現在において公知の事実としてあまねく国民一般の常識となつているところであるから、被告人等においても十分知つている筈であると考える。そして、本件のような饗応でも、投票はもとより選挙運動に対し相手方の歓心を買うに足る程度のものであることを否定する訳にはいかず、たとい、受饗応者がそれ以前既に玉置一徳のために投票又は選挙運動をする意思を有していたとしても、その決意を強化して、その変更を防止するに役立つし、また、その実質上の効果はもと角として、饗応それ自体が第三者をして選挙の公正を疑わしめるものといわねばならない。殊に本件饗応は選挙運動が禁止されている事前運動の一環としてなされたものである点からみると尚更その感を深くする。こう考えてくると、本件饗応を社交的儀礼行為であるとし、選挙の公正を害する虞れがないものとして不問に付し得ないものといわねばならない。このことは所論の一〇月六日ごろの田辺町公民館における被告人田宮正夫らの受饗応が、その際の受饗応者がいずれも右後援会の各地区の責任者であり、自らも他の日時場所において他の者を饗応していることで問責されている者で、同人らがもともと玉置の支持者であつて、本件のような饗応に動かされて、玉置を支援しているものでないとしても、前記説示の公職選挙法の律意に照らし、同日の饗応だけ社交的儀礼に属するものであると察することは相当でなく、又所論の本件各饗応が場所的に公民館、青年婦人研修所等の公共の施設を利用して行われていること、ビールを提供したのは、当時夏季であり、お茶代りのものであり、飲食物合わせて同地方の常食程度のものであるとのこと、同地方の会合として夜間を選ばさるを得ず、夕食の時刻に弁当程度のものを提供したものに過ぎないとの各事情を検討しても前記の判断に影響を来さないものと思科せられる。(笠松義資 中田勝三 荒石利雄)